ウェッジのノーメッキ加工について色々
広島市安佐北区のゴルフ工房 スルーザグリーンです。
今回はウェッジのノーメッキ加工(メッキ剥離加工)についてです。
ノーメッキとは
ノーメッキとは、書いて字の如く
メッキなどのプレーティングを施さずに仕上げられた状態。
ゴルフクラブのアイアンやウェッジ・パターに使用される鉄素材は、そのままでは錆びる特性を持っているものが多く
錆を防止するためにプレーティングが施されています。
そのプレーティングの中でも、メッキを施していない状態のヘッドを「ノーメッキ」や「ノンメッキ」と呼んでいます。
錆を防止するプレイティングには、メッキ以外にも様々なものがあります。
- PVD
- DLC
- 黒染め
- オイルカンなど
今回は「クロムメッキ仕上げ → ノーメッキ仕上げ」
このノーメッキ加工の実例を見ていきます。
ノーメッキ仕上げの「メリット」や「デメリット」「違い」や「加工後の変化」などと
「話題?のDIY」や「ウェッジとしての寿命」などを、工房視点ではどう見ているか書いていきます。
加工事例
今回のご依頼品のノーメッキ加工するウェッジはコチラこちら。
このARTISANのウェッジにはラインナップにノーメッキタイプがありますが
今回は友人の方から譲っていただいたので、
クラブを「ノーメッキにして使用したい。」とのご依頼です。
クロムメッキ仕上げをノーメッキへ仕上げ変更後、元のシャフトへ戻します。
ノーメッキ仕上げにすると、メッキ分ネックが細くなります。
今回は可能なら装着されている純正ソケットを再利用したいと思います。
加工前
今回のご依頼品の「ノーメッキ加工前」のスペックは下記の通りです。
番手:56° SB
仕上げ:ニッケルクロムメッキ
長さ:35.25インチc
総重量:459g
スイングウェイト:D5
加工前ヘッド重量:302.7g
シャフトはダイナミックゴールド MID
グリップは:ツアーベルベットラバー
ARTISANのウェッジヘッドは、重心位置の設計が他のウェッジと比較するとやや特殊ですが、クラブとしてのスペックは標準的。
ネック内にウェイトは無し。
加工後
「ノーメッキ加工後」のヘッド重量や仕上がりの変化
鉄が剥き出しですので、防錆粉に塗れています。
ノーメッキ加工後ヘッド重量:297.6g
加工前ヘッド重量:302.7g
変化重量:-5.1g
クラブに戻します。
今回はソケットも再利用できましたので、ソケットの重量変化はほぼ無し。
長さ:35.25インチc
総重量:459g → 453g (−6g)
スイングウェイト:D5 → D2.5 (−2.5ポイント)
ノーメッキ加工に加え、バフによる表面の整えとブラストによる処理を行ってもらっていますので、直後は驚くほどキレイな状態です。
触ったところから錆びてしまうので、お渡しまでにこの状態をキープするため、できるだけ素手で触れないようにします。
触ったり使用しなくても、ノーメッキ状態の軟鉄素材は空気中の水分で徐々に錆びていきます。
そのため長期保管には向かないですね。
今回の加工料金
ヘッドの脱着含めて6,600円ほど。
※状態や仕様によって金額が前後もしくは受付できない場合がございます。
※ソケットの再利用は状態や素材、仕様によって出来ないことがあります。
その際は同じソケットの手配を行いますが、メーカー純正品や特殊なソケットの場合は手に入らないことがあります。
脱着の作業風景を少し。
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なぜか再生回数が多い、ヘッドを抜く動画。
今回はソケットを再利用するため、ソケットを保護しながらヘッドを抜きます。
ノーメッキ加工とは
軟鉄素材で出来ているアイアンやウェッジ・パターには、防錆加工がされる事が多い。
その防錆加工を取り除く加工を「ノーメッキ加工」と言います。
スチールシャフトのほどんどにも、何かしらの防錆加工が施されています。
が、錆による強度低下が考えられますのでシャフトはノーメッキ加工することはありません。
ノーメッキ加工のメリット・デメリットやノーメッキ加工することによる寿命の変化などを見ていきます。
メリット
ノーメッキ加工のメリットとして挙げられるのが
- 打球感が柔らかく感じる。
- ソール研磨を目立たなくスムーズに行える。
- アドレス時の光の反射で眩しく感じるなどの問題が解決
- かっこいい。 それも大事。
- ウェットコンディションでのスピン性能UP
- バランスダウン出来る
これらの中で、打球感とウェットコンディションでのスピン性能の向上は、最も注目される部分です。
打球感について
クロムメッキと軟鉄の代表S25cでは、測定方法にもよりますが約2倍以上の硬度差があります。
- クロムメッキが硬い
この硬度差により、軟鉄素材そのままの打球感を得られるノーメッキの方が、柔らかな打球感になります。
ウエットコンディション時
ウエットコンディションっと聞くと雨天時や雨上がりを想像しますが、
- 朝露
- 霜
- 霧
- スプリンクラーなどによる散水
これらで芝生が濡れている事は思いの外多い。
ボールの表面に水滴が付いている場合や、フェースとボールとの間に濡れた芝生が噛んだ場合
ノーメッキのウェッジの方が安定したスピン量を得られたとのデータがあるようです。
デメリット
反対にノーメッキ加工のデメリットとして挙げられるのが
- 錆びる
- 手入れの面倒さ
- 溝・ソールの寿命が短くなる 年間15ラウンドだと早い方で1年。
- 溝が減るとスピン性能は低下する。
- バランスダウンする
錆びる
錆びさせないために施しているメッキを取り除くのですから、当然錆びます。
防錆剤やオイルが塗布されている間は、かなり酸化が抑えられますが、
コースで使用したり、バッグからの取り出しでネックなどを触ると、その部分から早ければ半日程度で酸化による曇りが生じます。
条件にもよりますが、僅か数日で錆びだと認識できる状態になります。
溝・ソールの寿命が短くなる
メリットの反対です。
柔らかな軟鉄のヘッドを守るため、メッキには硬度の高い鉱物が使用されています。
フェース面やソールを摩耗や損傷から守っている訳ですので、ノーメッキ加工をすると軟鉄が剥き出しになります。
柔らかな素材故、メリットで触れたように打球感も打球音も柔らかくなりますが、小石や砂利による摩耗は激しくなります。
新品時と同等のスピン量を得られる状態は平均的なラウンド数(12〜15ラウンド)で1〜2年といったところ。
使用する頻度や環境にもよりますが、バンカーの練習や粒子の粗い砂のバンカーなどで頻繁に使用すると、3ヶ月〜半年程で寿命を迎えることもあります。
それだけクロムメッキが硬いということの裏返しでもあります。
DIYできる?
「DIYで某トイレ洗剤でメッキ剥離」とかたまに見かけますが、基本的にオススメしません。
十分な準備を整えて、リスクも分かって行える方は気を付けて行ってください。
その他の方は、化学実験として体験でやってみて、
「ウェッジとしての性能が著しく低下しても気にしない」ということなら、やってみても良いかも知れません。
「メッキを剥がすのは簡単」っぽく伝えておられる方もおられますが、サン○ールで取れるのは
- 錆 = 錆が落ちるということは、鉄部分を腐食していきます。
- クロムメッキ = クロムメッキ層が溶けてニッケルメッキ層が残ったヘッドに。
「ニッケルメッキ」の他、角度やロゴなどの刻印内に施されている「ペイント」などの塗装は残ります。
どうにもならない状態のヘッドが「DIYをサン○ールでやった」っと持ち込まれることが、たまにあります。
どのようにどうにもならない状態かの一例を挙げると、
- ネックの内径ガバガバ状態。
ネック内の穴にはメッキが施されていないため、一番先にネック内の鉄部分の腐食が始まります。
全体のクロムメッキを剥離するころには、ネック内部が溶けて径が広がってしまいます。
均等に広がってくれればまだマシですが、、、
歪にガバガバに広がったネック穴に、DIYでシャフトが真っ直ぐに装着しにくい事は想像に容易い。 - スピン性能の低下
バックフェース・ソールなどをロゴ内も含めて剥離するために、ある程度の時間処理を続ける必要があります。
使用により溝エッジ部のメッキが薄くなっている場合は、溝の角から腐食していきます。
溝の角の開いた丸溝になっていきます。
最も使用時にボールと接触する溝の角から腐食していききます。
時間を掛けるほどにスピン性能がどうなるかは、ご想像の通りです。 - フェースの平面度の低下
先ほどの「溝のエッジ」と同じように、フェース面でメッキに傷が入っていたり薄くなっているところから腐食していきます。
ニッケルメッキ層は溶けないので、一番使用時にボールが当たる部分が腐食して凹んでいきます。
3つの例を見てきましたが、DIYでも確かにノークロムメッキのウェッジにはなります。
が、
- スピン性能の低下した
- フェースの使用部分が窪んだ
- まだらな仕上がり
- シャフトの真っ直ぐ刺さらない
こんな感じのヘッドができあがります。
また、後処理で中和を行わないと、水で洗浄したぐらいでは侵食を完全に止めることが出来ません。
先ほどのどうにもならない状態が、更に進行します。
ヘッドを脱着せずに行った場合、スチールシャフトが装着されているとソケットとネックの隙間からシャフトのメッキを剥離した部分が腐食します。
隙間を完全に中和できないため、侵食がそのまま進むと使用中に最悪折れて飛んでいきます。
廃液にはクロムなどの金属が溶けているため、下水に流したりは環境に非常に良くありません。
色々書きましたが、使えるDIYノーメッキウェッジにしようとすると、準備も後処理も意外と大変です。
検討されている方は、ご依頼いただくことをオススメします。
参考になれば幸いです。
お読みいただき、ありがとうございました。
ゴルフパフォーマンス スタジオ
THROUGH THE GREEN(スルーザグリーン)
〒731-0201
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